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ニシノユキヒコの恋と冒険

ニシノユキヒコを囲む女の人から見たニシノユキヒコの話。

ニシノユキヒコの恋と冒険

ニシノユキヒコの恋と冒険

巻末の解説で藤野千夜さんも書いてたけど、要するに女ったらしの話である。ほどよくイケメンでほどよい清潔感を持った男が、ほどよい距離感をもってほどよい笑顔で接してきたら、たいていの女は好きになっちゃうよね、という話。それで付き合ってみればほどよいデートとほどよいセックスをこなし、ほどよく自分の弱いところや抱えた闇をちらつかせて見せ、余計に好きにさせてしまう。ただしまったく本気で愛してはくれない。
私だったらどうだろう?と考えてみる。例えば会社にニシノユキヒコがいたら。軽い会話はするだろうけど、そんな掴みどころのない人間と積極的に仲良くなろうとは思わないだろう。本一冊分のエピソードを読んでも彼がどんな人間なのか結局わからないというのに、表面だけの会話で彼の人となりがわかるとは思えない。
例えば友達が、ニシノユキヒコのことを好きになってしまったとする。気持ちはわからなくもないが、幸せな結末は見えないのでおすすめはしない。でもどれだけ私が言葉を尽くしてそんな男と付き合うのはやめなさいと言ったところで、友達は好きになることをやめられないだろう。私はきっとそれを、頂点に登っていくジェットコースターに乗っている客の悲鳴を聞くような気持ちで見ているだろう。もう手遅れ。心行くまで悲鳴を上げてジェットコースターを堪能して、また乗り場に戻って来ればいい。
では私の心にニシノユキヒコがするっと入ってきてしまったらどうだろう。好きにならないとは言い切れない。結局はこの本に出てきた数々の女と同様に、ちょっと好きになって、そしてやっぱり掴みどころがなさすぎて降参するのだろう。モテるかモテないかという尺度で言えばこれ以上ないくらいモテるのに、誰のことも愛せず誰からも愛されないまま死んでいった、かわいそうな人の話。